イラクのマイノリティが危機に瀕している。モスル近郊で14日に起きた自爆テロは犠牲者の数が増え続け500人に達したとの報道もある。イラク戦争以降最大規模の惨事となるのは確実だが、数字以上に深刻なのはテロの標的がヤズィディー教(Yazidis)を信仰するクルド人であった事だ。
ヤズィディー教はかつてゾロアスター教を信仰していたクルド人が、イスラム教シーア派、キリスト教、ユダヤ教などの教義を混交させて生まれた宗教だ。”マレク・タウス”と呼ばれる青い孔雀を天使として崇拝するなど神秘主義的な要素が強く、イスラム教徒からは邪教とされ、歴史的に迫害を受けてきた経緯がある。
今も50万人の信者がイラク北部モスル周辺を中心に暮らしており、周辺国のトルコやイランにも少数が暮らす。数年前、トルコ南東部のマルディンという町を訪ねたことがある。イラクとの国境にも近いこの町には、70年代には8万人のヤズィディー教徒が暮らしていた。しかしイスラム教徒からの迫害を受け、その多くがヨーロッパに脱出したという。私が訪ねたときはわずか3百人ほどがひっそりと暮らしていた。彼らを直接訪ねる機会はなかったが、イスラム教徒のクルド人たちが、「奴らは悪魔を崇拝している」と、ヤズィディー教徒を公然と非難したのに驚いた憶えがある。
この地域にはヤズィディー教以外にもアレウィー教、シリア正教、アルメニア正教など様々な少数宗派が混在している。幾多の文明が興亡を繰り返し、”民族宗派のモザイク”とも称されるメソポタミアの文化の多様性を象徴する光景とも言える。
今回、自爆テロを行ったと見られる「イラク・イスラム国」は、アルカイダ系のスンニ派武装勢力だ。http://blog.livedoor.jp/eurasian/archives/945675.htmlこれまでアメリカ軍やシーア派住民を標的にテロを続けてきたが、その”ソフトターゲット”をついに、宗教マイノリティーにまで広げたようだ。多様性を認めず力で排除する原理主義勢力の台頭は、抗争を続けながらも何とか多民族が共存してきたメソポタミアの歴史そのものをも否定しようとしているかのようだ。
(写真:ヤズィディー教徒が崇拝する青い孔雀、”マレク・タウス”)