アフリカの悪名高い独裁者が初めて来日し、31日に安部首相と首脳会談を行った。男の名はオビアン・ンゲマ。西アフリカの小国・赤道ギニアの大統領として30年近く君臨する人物である。
私は一昨年、2度にわたり赤道ギニアでの取材を行っている。世界最貧国のひとつと言われた同国で起きている石油ブームの実態を世に知らしめるのが目的だった。赤道ギニアではオビアンによる恐怖政治で、政敵の逮捕、拷問、処刑は日常茶飯事。政府内部の腐敗も酷く、汚職による貧富の差は広がる一方である。アムネスティなど人権団体はオビアンを告発し続けているが、状況は一向に改善されない。それどころか人権問題を批判し続けてきたアメリカ政府は、90年代に赤道ギニアで石油が発見されるや態度を豹変、メジャーを中心としたアメリカ石油産業が嵐のように赤道ギニアに殺到しているのである。
一方、活発な資源外交を繰り広げる中国は、赤道ギニアでも圧倒的な存在感を見せていた。首都マラボに立派な大使館を置き、石油利権と引き換えに経済支援を加速させている。取材受け入れ窓口だった地元テレビ局の青年は中国への留学経験があり、中華料理店に行くと流暢な中国語で店主と会話するのに驚かされた。人権問題無視との批判を浴びながらも実利を追求する中国外交のしたたかさに舌を巻いたのを憶えている。それに比べ日本の存在感は皆無に等しかった。大使館は現地になく、日本企業の姿も見えない。完全に出遅れているのだ。
とはいえ、国際的に問題視されている独裁政権とのお付き合いについては慎重になるべきであり、むしろ出遅れて当然だと考えていた。
ところが、今回の首脳会談である。
会談の背景には、中国の動きを牽制したい日本政府の意向が読み取れる。北京では4、5日の2日間、48カ国の首脳を招いて「中国・アフリカ協力フォーラム北京サミット」が開催された。アフリカの石油利権、国連での大票田に影響力を強めようという中国の露骨な動きだ。これに対し日本政府は、北京まで来るアフリカ首脳たちに日本まで足を運んでもらおうと、「アフリカウィーク」を企画。しかし結局来日したのは赤道ギニア、ガーナ、ルワンダ、タンザニアの4カ国首脳のみ。何ともお粗末な結果に終わったのだ。
常任理事国入りを重要課題と掲げる安部政権の誕生で、今後も中国とのアフリカ票の奪い合いが激化すると見られる。すでに勝負はついているようにも見えるが、中国と同じく人権問題を無視したなりふり構わぬ外交を始めるようでは、とてもアフリカ諸国との真の信頼関係の構築など出来ないだろう。
オビアンのような狡猾な独裁者は、日中の競争に付け込みあえて来日したのだ。両国の経済援助を天秤にかけながら、独裁体制をさらに強化していくのである。余談になるがオビアンは一昨年、石油利権をねらう英国貴族たちに命を狙われている。傭兵部隊を使ったクーデター計画が発覚したのである。事件は未然に摘発されたが、黒幕が英国のサッチャー元首相の長男だったことから、欧米では大きな話題となっている。
(写真?オビアン=安部会談?赤道ギニアの首都マラボ/04年4月撮影)