南の島で聴くアラブ音楽

Yuji Tsunemi ウードという楽器をご存知だろうか?中東イスラム世界で広く演奏されている弦楽器で、造形はギターに少し似ている。砂漠の楽器ならではの乾いた美しい響きが、何とも言えず幻想的な世界を作り上げる。

 先日、日本のウード奏者の第1人者・常味祐司氏のライブに行ってきた。常味氏はチュニジアでウードを学び、現在は東京を拠点に精力的に演奏活動を続けている。今回は2度目の沖縄ツアーだという。実は常味氏の演奏は4~5年前にも一度聴いたことがある。以前住んでいた横浜市綱島の”ナマックカフェ”で行われたライブだった。この店の主人Shinちゃんは遊牧民や少数民族に造詣が深いうえ、相当な音楽好事家である。しばしば質の高い音楽家を招きイベントを企画しているが、そのひとつが常味氏のライブだった。私は仕事で中東に取材に出かける機会が多いのだが、現地でウードのソロ演奏を聴く機会は意外と少ない。そういう意味で、常味氏の演奏は大変新鮮な体験だったのを憶えている。

 それから4年、私自身この7月、沖縄に拠点を移し、アラブ音楽を聴く機会もめっきり減っていた。代わりによく聴くようになったのが、島唄やレゲエ、サルサなどだ。沖縄に住むとオリオンビールが美味しく感じるように、音楽も気候に左右されて、南国的なものに趣向が変わるのだろうか。そんな折り、偶然にも常味氏のライブを再体験する機会にめぐり遭ったわけである。

 私が訪ねたのは最終日、那覇市安里にあるアルテ栄町「GARDEN」でのライブだった。10人も入ればいっぱいになる店で、常味氏の演奏を間近で聴くことができる。前半はトルコの作品、後半はアラブの作品と、初心者でも違いが楽しめるよう構成され、曲間には常味氏自身による丁寧な解説もあった。特に興味深かったのは、アラブ音楽とスペイン音楽の共通点についてだ。常味氏によれば、アッバース朝下のバグダッドで活躍したジリアーブという宮廷音楽家が、師に妬まれて追放された挙げ句にたどりついた後ウマイヤ朝のコルドバでウードを広めたのだという。そのため、フラメンコなどスペイン音楽にはアラブの影響が色濃く残っているのだそうだ。イベリア半島を制服したイスラム勢力は、建築などで大きな足跡を残しているが、音楽でも大きな影響を与えているわけだ。音楽を通して世界を見ると、ヨーロッパと中東に明確な境はなく、全てが複雑に影響しあっているのだという。私も現地に行く度に似たようなことを感じており、音楽家ならではの視点にとても共感できた。

 1時間半に及ぶライブで、ウードの音色は、しばし南の島にいることを忘れさせてくれた。心はアラビア半島の砂漠へ、チグリス・ユーフラテスの草原へと飛んで行った。音楽とは、その土地の気候や風土に合ったものだけが心地いいのではなく、人間の意識を全く別の世界にいざなってくれる不思議な力を持っているものなのだと改めて感じたひと時だった。

※常味氏のライブ情報はこちらでチェック。

(写真:常味祐司氏/10月8日・アルテ栄町ガーデン)

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