ムンバイの南端にある漁港、サスーンドック。インド経済を動かすオフィス街の目と鼻の先で、今も”ダウ船”が現役で活躍していた。ダウ船とはイスラム圏で発達した木造の帆船で、釘を一本も使わないで製造されるのが特徴だ。中世にはアラビア半島を中心に、東アフリカからインド、東南アジアや中国までを行き交い、海上貿易の担い手であった。
現在のダウ船は帆は使わずエンジンを搭載しているが、木造のボディーは昔ながらだ。サスーンドックに停泊していたのは全て漁船だったが、今も湾岸アラブ諸国との物流に活躍している船も多いという。多くの船が目指すのは中東のダウ船貿易の拠点、アラブ首長国連邦のドバイだ。高層ビルが立ち並ぶクリーク沿いに、木造の古びたダウ船が停泊する不思議な光景は今やドバイのシンボルともなっている。
ムンバイで私が泊まったホテルの名は”GULF HOTEL”。中東でガルフと言えばペルシャ湾のことであるが、その名の通りこのホテルには湾岸諸国からのアラブ人客が多い。宇宙船の内部のような(乗ったことはないが)、いかにもアラブ人好みの変な内装のホテルだ。聞いてみれば、インドにわざわざ病気の治療を受けに来るのだという。今や年間15万人もの外国人が、高度で安価なインドの医療を求めて訪れる。その中心都市がムンバイなのである。
アラビアンナイトに登場する船乗りシンドバッドはインド人だったとも言われる。ダウ船が紡いだインドとアラブの交流の歴史は、今も形を変えて生き続けている。