対米テロを警告するビンラディンの新たな音声テープが公開された。声明の真意は何か。様々な憶測がメディアに飛び交っている。
注目されるのは、ビンラディンが新たなテロを予告する一方で、米軍がイラクから撤退すれば”長期の停戦”に応じる用意があるとして、初めて譲歩の構えを見せたことだ。
テープが本物かどうか疑わしいが、CIAは「本物である」と断定している。
そのCIAの発表こそ最も疑わしいのだから、本当のところは誰にも分からない。
実際、ビンラディンが停戦を提案するというのは、氏のこれまでの言動から考えて想像しにくい。健康悪化が取り沙汰されるビンラディンが血迷ったのか、対テロ戦争の失態を隠したいアメリカによる自作自演の可能性もないとは言えない。
いずれにしても、ビンラディンの声明などもはやイスラム世界において何の効力も持たないことを指摘しておきたい。
イスラム世界では反米感情は庶民にも広く浸透しているものの、テロによって問題を解決しようとするビンラディンの思想に、多くの人々は嫌気がさしている。一方、テロを容認するイスラム過激派にとっても、ビンラデインは闘争の”シンボル”ではあるが、作戦を統率する総司令官ではない。
”ビンラディンを頂点とするアルカイダが今も世界各地でテロを繰り広げている”とアメリカは喧伝しているが、実態は違う。アルカイダは、アフガニスタンで対ソ聖戦に参加したムジャヒディンたちが自国に戻り、ビンラディンを中心にゆるやかなネットワークで繋がった国際テロ組織だった。しかし、911以降のアメリカによる対テロ戦争で、そのネットワークおよび構成員は大きな打撃を受けたと考えられる。
いま、イラクやロンドンなどでテロを指揮しているのは、アルカイダとは関係のない独立した新たなテロ組織だ。アルカイダの実態がなくなったと言われる一方で、アルカイダに触発された若者たちが、全世界でそれぞれに独自に組織を作り活動を続けているのだ。
反米テロを世界に広めたという意味では、アルカイダはもう十分その役割を果たしたと言える。テロ細胞が世界に増殖し続けることは、アルカイダがビンラディンの統率下で活発である以上に恐ろしいことだ。
それにも関わらず、アメリカはパキスタン・アフガニスタン国境地帯で”ビンラディン狩り”を執拗に続け、メディアもそれに踊らせている。
ビンラディンの声明が発表される1週間ほど前、パキスタンの山岳地帯の村では、「アルカイダの高官が潜伏している」との情報を元にCIAの無人偵察機によるミサイル攻撃が行われた。この攻撃で、アルカイダのメンバー4人が死亡したとされるが、重要なのは、村の女性や子供を含む民間人18人も死亡している点だ。
ビンラディンの幻影を追い続けるアメリカの無謀な攻撃で、無垢な市民の命が犠牲にされていることは、到底許されることではない。ニュースでもあまり大きく報道されていないこうした事件に対して、アメリカが今後、どのように弁明し対処していくのか、見守っていきたい。