イラクでテロが再び激化している。
昨日はイスラム教シーア派の聖地・カルバラの人通りの多い路上で爆弾を身につけた男が自爆、周囲にいた50人以上が死亡した。今年に入ってすでに死者は220人を超えている。12月に行われた国民議会選挙の結果はいまだ発表されていないが、シーア派の圧倒的勝利が確実視されており、今後の政治プロセスへの妨害を狙ったスンニ派武装勢力による無差別攻撃だと思われる。
フセイン政権時代、スンニ派支配の元で長年弾圧されてきたシーア派は、民主化プロセスの中で結束し、新政府では一躍主役に躍り出る。シーア派にとっては待ちに待った表舞台だが、民族や宗教が複雑に混在するイラクにおいては、事はそう簡単には進まない。
スンニ派とシーア派の対立は、預言者ムハンマド以降、誰がイスラム共同体の指導者となるべきかという”権力闘争”がそもそもの発端となっている。その意味では、現在のイラクにおける状況は、この両派の1000年以上にわたる対立が、民主化という名の下で再び燃え上がっていると見ることができるのではないだろうか。
カルバラはシーア派第3代イマーム・フセインが、スンニ派勢力に虐殺された悲劇の地として知られる。町にはフセインの霊廟があり、シーア派最大の聖地となっている。シーア派はこのフセインの殉教の痛みを忘れないために、毎年その命日に殉教祭(アシュラ)を盛大に執り行う。上半身裸になった男たちが、鎖で胸を打ちながら血だらけになって町を練り歩く姿は、シーア派の代名詞とも言える。
また、シーア派で特筆すべきなのが、祈りの際に使われる”カルバラの石”である。フセイン殉教の聖地カルバラの泥を固めた小石を床に置き、その小石に額をこすりつけることで、1日5回の祈りの度にフセインの痛みを自らの体に刻むのである。
敬虔なイスラム教徒の額には”祈りダコ”と呼ばれる傷があるが、シーア派の場合は石にこすり付けるため、その傷もより生々しいものである。
純粋な宗教教義ではなく、権力闘争をめぐる悲劇の歴史にこだわるシーア派の思考回路は、世界の宗教の中でも極めて特殊なものと言えるだろう。ちなみに今年のフセイン殉教祭は2月9日。再びテロの悲劇が起こらないことを願うばかりだ。
(写真:イランのシーア派のモスクで見つけたお祈り用の”カルバラの石”)