猪瀬都知事がイスタンブールについて差別的発言をしたことが波紋を呼んでいるが、
報道の多くが”東京へのオリンピック招致への影響”に終始していることに強い違和感を感じる。
猪瀬知事の発言、
「イスラム諸国が共有しているのはアラーだけで、お互いにけんかばかりしている。そして階級がある。」
「トルコの人も長生きしたいでしょう。長生きしたければ日本のような文化をつくるべきだ。若い人は多いかもしれないが、早く死んでしまうようでは意味がない。」
知事の発言は、トルコひいてはイスラム社会への信じがたい無知と偏見に基づいており、トルコをはじめ中東で長く取材を続けてきた自分としては怒りを禁じ得ない。そもそもトルコで若い人が早死にしているなど、何の根拠もない。まさか隣のシリアと誤解しているわけでもあるまいが。
オリンピック招致への影響以前に、このような国際感覚もない差別主義者が東京の行政のトップにいることじたいが、対外的にも実に恥ずかしい限りである。
中東イスラム圏はどこも親日的で、なかでもトルコは世界でもまれに見る”超”親日の国だ。
オスマントルコ帝国が西欧列強に分割植民地化される中、トルコ共和国の父アタトゥルクは、同じく列強の脅威にさらされながら明治維新を成し遂げた明治天皇を深く尊敬し、明治政府をモデルに国作りを行った。また、南下政策で常にトルコに脅威を与えていたロシアを、日露戦争で日本が敗ったこと。トルコの軍艦が和歌山沖で遭難し、地元の人々が熱心に救出活動を行い、犠牲者を手厚く葬ったエルトゥール号事件への感謝などなど。
トルコ人の日本への熱烈な愛情は、もはや”憧れ”に近いものがある。
今回の猪瀬発言は、こうした”片思い”をことごとく打ち砕くものだ。
いちばん傷ついているのはトルコの人々であることは言うまでもない。
結局、戦後の日本は中東を石油モノカルチャーとしてしか見ることをせず、
石油さえ手に入れば、相手のことを知ろうともしてこなかった。
知事の発言はこうした中東への偏見の典型的な例だ。
今日、安部総理がサウジアラビアを訪問し、日本では建設できなくなった原発の売り込みを行ったうえで、
中東に22億ドルの支援を表明した。なんとも皮肉な話だ。
石油が原発などのインフラ輸出利権になっただけのことで、中東への本質的な理解はほど遠い。
今回の事件がせめて、こうした差別や偏見を問い直すきっかけになればと願うばかりである。
(写真はトルコの食堂で。今年2月)